ピラティスで大切にしていること
― 鍛える前に、整えるという考え方 ―

私たちは、ピラティスを「鍛えるためのエクササイズ」とは考えていません。 もちろん、結果として筋力は向上し、姿勢は整い、身体は引き締まっていきます。 しかし、それは目的ではなく“結果”です。
私たちが本当に大切にしているのは、 身体を本来あるべき状態、すなわち「ニュートラル」に戻すことです。
ピラティスの創始者である ジョセフ・ピラティスは、自身のメソッドを「Contrology(コントロロジー)」と名付けました。 それは単なる筋力トレーニングではなく、 身体を意識的にコントロールできる状態へ再教育するための体系でした。
現代の運動科学や神経生理学の知見と照らし合わせても、 この“再教育”という概念は非常に理にかなっています。 だからこそ私たちは、強くする前に、まず整えることを大切にしています。
目次
ニュートラルとは「負担の最も少ない位置」である

ニュートラルとは、単に姿勢が良く見える状態ではありません。 解剖学的に見ると、関節が過度な前傾・後傾・回旋を起こしていない、 構造的に最もストレスが少ない位置を指します。
例えば骨盤が過度に前傾すれば腰椎への圧縮ストレスが増大し、 逆に後傾が強ければ椎間板や靭帯への負担が高まります。 しかし中間位に戻ることで、関節構造へのストレスは最小化されます。
つまりニュートラルとは、 「頑張って支える姿勢」ではなく、 自然に安定できる位置なのです。
不調の多くは“弱さ”ではなく“過活動”から生まれる
肩こりや腰痛を抱える方の多くは、 「筋力が足りないのではないか」と考えます。 しかし近年の運動制御研究では、 慢性的な痛みには筋活動のアンバランスや過剰な緊張が関与していることが示唆されています。
つまり問題は「弱いこと」ではなく、 一部が働きすぎていることなのです。
過活動が続くと、他の筋肉は抑制され、 正しいタイミングで働けなくなります。 その結果、関節に偏った負担がかかり、 痛みや可動域制限へとつながります。
したがって私たちは、 まず過剰な緊張を解き、神経系のバランスを整えることから始めます。 これこそが“戻す”というプロセスです。
呼吸はニュートラルをつくる土台である

呼吸は単なる酸素交換ではありません。 横隔膜は姿勢保持にも関与し、 腹腔内圧の調整を通じて脊柱の安定性を支えています。
しかしストレスや長時間の座位姿勢により呼吸が浅くなると、 補助呼吸筋が過剰に働き、首や肩の緊張を引き起こします。
そのため私たちは、 エクササイズよりも先に呼吸を確認します。 呼吸が整うことで、 神経系は「安全」と判断し、 身体は自然にニュートラルへ近づきます。
呼吸は、力で整えるのではなく、 内側から整えるための最も重要な要素なのです。
可動域は“広げる”ものではなく“戻る”もの

身体が硬いと、多くの方はストレッチで無理に伸ばそうとします。 しかし可動域の制限には、 神経系による防御反応が関与している場合があります。
関節が不安定であったり、 特定の部位に過剰な負担がかかっていると、 脳はその動きを危険だと判断し、 可動域を制限します。
ニュートラルが確立されると、 関節の安定性が高まり、 脳はその動きを安全だと再認識します。 その結果、 無理に伸ばさなくても自然に可動域が広がるのです。
私たちは“広げる”のではなく、 整うことで“戻る”ことを目指します。
頑張らなくても安定している状態を目指す

理想的な身体とは、 常に力を入れて姿勢を保っている状態ではありません。 必要なときに必要な筋肉が働き、 それ以外は過剰に緊張しない状態です。
ニュートラルが確立されると、 姿勢は「維持するもの」から「自然に保たれるもの」へ変わります。
これは一時的な変化ではなく、 神経系の再学習による持続的な変化です。 だからこそ私たちは、 回数よりも質を重視し、 急がせることをしません。
まとめ ― 私たちが整える理由

私たちは、やみくもに鍛えることを目的にしていません。 まずはニュートラルに戻すこと。 そして正しく使える身体を育てること。
その土台があってこそ、 筋力も、柔軟性も、姿勢も、 本質的に変わります。
もしあなたが、 「鍛えているのに改善しない」 「その場では良くなるが戻ってしまう」 と感じているなら、 それは“戻す段階”が抜けているのかもしれません。
ピラティスで私たちが大切にしているのは、 身体を作り変えることではなく、 本来の状態へ戻すこと。
その感覚を、ぜひ一度体験してみてください。